夜明け前。

 

仕事の現場に向かって
さっそうと家を出ました。
静けさとこの薄闇は
私をワクワクさせてくれます。
いつもの道。
なのに新しい世界を旅しているような。
初めて見る景色。
なんだか不思議な気分でした。

ゴツ、ゴツ、ゴツ。

アスファルトを踏みしめるこの足音。
あぁ、いい音。

ゴツ、ゴツ、ゴツ。
うん、いい音。

とつぜん

どこかの家で赤ちゃんが泣き始めました。
オンギャーーーー!!!

オンギャーーーーー!!!

あの小さな身体から
こんな大きな声が出るとは。
オペラ歌手にも勝るのでは?
武道館でもマイクがいりませんね。

この子のお母さんやお父さんは
毎晩たいへんなことと思います。
ご近所さんも
毎晩たいへんなことと思います。
皆が協力して子を育てて行くのですね。

私もこうやって
大人の人たちに
苦労をかけてきたのだと思うと
頭が上がりません。

そう考えているうちに
赤ちゃんの家の前まで来ました。



あれ?


泣き声は
その家からではないのです。


あれ?


泣き声は
その家の庭から聴こえるのです。


目をこらして
庭を隅々まで覗いてみました。


ははは。


 ははは。


ずんぐりむっくりの猫さんが
大きな声で
泣いていました。

いや、

鳴いていました。


どなたか
この大きな猫さんを
あやしていただけませんでしょうか。




nonosumika